「生活保護vs子供の貧困」(2014年10月31日)


市の政治に関わり、一人一人の市民と向き合う上で、避けては通れない問題だと思い読みました。
筆者の大山典宏氏は埼玉県志木市の市役所でケースワーカーをなさった経験があり、かつ個人としてもサイトを経営して困窮者向けのアドバイスを行なってきた実績のある方です。
また、本書の構成も非常にクリアで、実例と統計の数値に富み非常に勉強になりました。

大山氏は、日本だけでなくイギリスの救民政策の歴史や欧米諸国の制度も踏まえた上で、生活保護に関する言説を、貧困の原因を社会構造に求めて生活保護の入り口を広くスべきだという「人権モデル」と、貧困の原因を個人にもとめて入り口を狭くし不必要な給付を抑えようとする「最適化モデル」に分けて説明されています。
最終的に著者は両者の折衷案である理想の福祉として「入り口は広く、出口も広く」を提唱されています。

人権は政治が重視しなければならない最も重要な原則であり、かつ生活保護は社会の安全弁ですので安易な削減は社会全体に大きな不利益をもたらしますが、一方で、生活保護には親から子への貧困の連鎖があることが認められており、拡大と同時に受給者が社会復帰できるようになるための出口戦略も明確に定める必要があるということです。

そして、行政として意味のある出口を用意する為にはNPOとの連携が不可欠であり、後半部分では全国各地で高いパフォーマンスを挙げている活動事例がたくさん紹介されています。

社会現象としての「貧困」は国家全体の経済の浮き沈みや産業構造の変化など市のレベルではどうにもできないことですが、それでも、市民と行政と政治家が連携してやれることはたくさんあります。

以下、市政のレベルで何ができるか、という点から論点をまとめます。

1.日本の貧困の実態

・ワーキングプア問題:日本の正社員比率は84年に比べて15.3%減の64.8%であり、年収200万円以下の人口は1025万人にのぼる。女性のみの世帯の43.3%がワーキングプア。失業給付を受けていない失業者の割合は77%であり、欧米諸国に比べて著しく低い。
・生活保護利用者の75.6%は単身世帯
・生活保護の開始の理由:収入の減少と喪失が27.7%、傷病が27.6%、貯蓄の減少と消失が25.4%(2012年の統計)
・受給者が一番多い大阪市では市民の18人に1人が受給し、生活保護費は2916億円で一般会計の17%
・貧困の連鎖:2006年の堺市の調査によると、受給者のうち25%が子供時代に生活保護を利用していた。そして、さらにそのうちの母子家庭の母親の66%が中卒で40.6%が子供時代に生活保護を受けていた。

2.生活保護における「人権モデル」派の意見

・論旨:水際作戦による排除をやめよ、偏見やバッシングをやめよ
・代表的な論客:日弁連
・世間に周知されたきっかけ:NHKの「ワーキングプア」(2006)と北九州市孤立死事件
・キーワード:監視社会化、行政の責任放棄、人権、利用「率」の低さ
・諸外国との比較:日本のGDPにおける生活保護費の割合は0.5%でOECD加盟国平均の7分の1、国連からも是正勧告が出ている
・不正受給について:不正受給率は低い(0.4%)、ズルをしようとする人間は巧妙に制度の穴をついてくるので手続きや基準を厳しくしても一般の受給者が困るだけ

3.生活保護における「最適化モデル」派の意見

・論旨:受給要件を厳しくせよ、社会復帰を強く促せ
・代表的な論客:財務省主計局
・世間に周知されたきっかけ:NHKの「生活保護3兆円の衝撃」(2012)と女性セブンによる芸人の母親の生活保護受給バッシング
・よく使うワード:目的外使用、脱却率(利用年数が長くなればなるほど脱却率が減って行く)、利用「数」の増加とその増加率
・諸外国との比較:米国、ドイツでは職業安定所からの仕事は原則受けなければならない。受給者一人あたりに支払われる額は日本は高い
・不正受給について:納税者の理解を得られない。2012年に兵庫県小野市が実施した生活保護者のギャンブル禁止条例には全国から1700件のメッセージが送られ、応援が六割超だった

4.筆者が提唱する貧困対策

・理想は「間口は広く、出口も広く」
・生活保護は精神病院や難民化がもたらす社会的損失に比べれば遥かに割安な社会の安全保障である
・「何を、いつまでに、どれくらいやるのか」を明確に
・これからの福祉はアウトリーチ(=訪問型)が重要
・就労支援の成功例:横浜市中区の就労準備支援事業は2011~12のあいだで受講生56人のうち48人が終了、29人が就職を果たす
・シェルター:原則3ヶ月の避難所の提供
・家計管理:生活保護受給者でこの部分でつまづいている方は多い。グリーンコープ福岡は貸し付け5億8000万のうち貸し倒しはわずか560万円、貸借付残高費0.97%を達成。
・貧困の連鎖対策:埼玉県は一般社団法人に委託して生活保護世帯の子供達への教育支援を実施している。学習支援をうけた305人中296人が高校進学に成功。
・学習支援:NPOキッズドア、タダゼミ、文化学習共同ネット
・就労支援:ワーカーズコープ(就労支援、就労意欲喚起、高齢者見守り、財産管理、学習支援)
・NPOを増やすには、それが社会にもたらす利益を可視化する評価モデル導入が必要=SROI(social return on investment社会的投資収益率)

5.イギリスの救民政策歴史は人権モデルと最適化モデルの間で揺れ動いている。

(1).救貧法(=1601年、困窮者の救貧院へ収容し最低限の物資と労役をあてがう)
(2).スピーナムランド法(=1795年、個人単位の金銭による補助)
(3).新救民法(=1834年、ワークハウスへの収容と、労働者の最下層よりも低
い水準である事が義務づけられる)
(4).戦後の福祉国家化

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